「ありがとう」の力と、自己効力感の話
わたしが働いていた、老人ホームにいた、あるおばーちゃんの話です。
そのおばーちゃんは、いつもいつも、自分の子どもの心配と、「迷惑をかけて申し訳ねぇ」というために、よくスタッフを捕まえていました。
認知症なので、何度も何度も、一日に何度も、5分ごと、ひどいと、あれ、今はなしてるのに、3周くらいしてるから、どこで着地させようかなと思う時も。
子どもが障がい者屋で申し訳ねぇ。
田んぼは農協さんに頼んであるけど…
自分もこんなんで、上手くあるけんで、昨日ベッドから落ちたんや(落ちてない)
と、申し訳ないと、できないことの嵐。
かまってほしい、話を聞いてほしい、心配、自分が役に立てなくなった、なにもできなくなった、そんな気持ちでいっぱいのおーばちゃん。
でも、めちゃくちゃ優しい。
いっつも、
「おねえちゃん、最近会わなかったけど元気してたか?(さっき話した)」
「身体だけは大事にせなあかんぞ!」
「わっちでできることがあったら、やるで、声かけてな!」
そんなことをいっつも最後に言ってくれる。
一緒に歌を歌ったり、制作活動をしたりするリハビリをしていた。
自分が役に立ったと思えたり、楽しいなと思えたり、そんな時間が週に1回でも、忘れちゃっても、持てるようにするために。
「~さん、ありがとう。」
「~さん、悩んでたんだね、話してくれてありがとう」
「手伝ってくれてすごく助かったよ、ありがとう」
「いつも、参加してくれてありがとうね。優しいね」
そんな言葉をかけると、
「そんな、大したことない」といいながら、いつも不安そうな時に大声で怒鳴っている声が、ちーーっちゃくなって、「そんなたいしたことねぇ…」「恥ずかしいで…」となる。
でも、ちょっと嬉しそうにしてる。
だから、「ありがとう」と言ってもらえる機会を増やしていた。
不安になると、スタッフを呼びつけて、不安を話す。それが、5分に1回、毎日毎日まーーーーいにち、続くと、スタッフも(またか…)となってくる。だって、他にも老人ホームを利用している人はたくさんいるから。
その人だけの話を聞いていられない。
聞いてあげたら一瞬落ち着くけど、また、不安になっちゃうのね。
わたしも、他のスタッフと同じだった。時間に追われる。仕事に追われる。
そんな時は、忙しそうなふりをして、その人の前を通り過ぎる。
声をかけられない雰囲気を出して、(ごめんね)と思いながら、前を通る。
そうすると、遠慮しちゃって、声をかけてこないことを知っていたから。元気にしているかなぁ。
わたしもね、今は、同じ。
人の役にも立てる機会はないし、お金もないし、毎日同じ繰り返しだし、不安なこと沢山、心配なこと沢山、申し訳ない気持ちがたくさん。
すごくすごくわかる。
ちっちゃな「ありがとう」に救われる気持ち、誰かと話したい気持ち、なんでもいいから手伝うから声かけてっていう気持ち、すごくよく分かる。
ぁぁ、元気にしてるかなぁって、1年くらい会っていない、そのおばーちゃんのことを思い出した。